大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和31年(ナ)7号 判決

原告 坂本幸吉

被告 福島県選挙管理委員会

主文

昭和三十一年四月七日執行された勿来市議会議員選挙の川部選挙区における選挙の効力に関する原告の訴願に対し被告が昭和三十一年九月四日した訴願棄却の裁決はこれを取り消す。

右川部選挙区における選挙を無効とする。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人等は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、第一、原告は昭和三一年四月七日執行の勿来市議会議員選挙の川部選挙区における選挙人である。右選挙区における議員定員は四名であるところ、訴外坂本太平治、鈴木明、小野敏爛、鈴木栄、芳賀新市、芳賀吉次郎及び加茂勝夫の七名が立候補した。右川部選挙区の区域は旧川部村の区域に当り全区を一開票区とし、第一ないし、第三投票区に分ち、第一投票区は旧川部村大字小川上、同三沢を、第二投票区は同大字沼部小川下を、第三投票区は同大字瀬戸、山玉を、それぞれその区域として定められ、第一投票区の投票所は第一投票所として勿来市小川町字寺前三番地所在川部公民館に、第二投票区の投票所は第二投票所として同市沼部町字鹿野四十三番地所在の繭集荷所に、第三投票区の投票所は第三投票所として同市山玉字畑ケ田五十七番地所在山玉公民館に、それぞれ設けられた。本件選挙の右選挙区における有権者数は二、八九二名で投票者の数は二、七四一名であつたが、各投票所における投票数は、第一投票所は一、四八九票(男七三〇票、女七五九票、うち不在者投票男女各四票を含む)、第二投票所は七九〇票(男三九一票女三九九票、うち不在者投票男二票女三票を含む)、第三投票所は四六二票(男二二四票、女二三八票、うち不在者投票女三票を含む)であつた。そして開票の結果有効投票数は計二、七二五票、無効投票数は計一六票で、前記各候補者の得票数は芳賀吉次郎四七三票、鈴木栄四六三票、芳賀新市三八〇票、小野敏爛三六八票、加茂勝夫三六三票、鈴木明三五一票、坂本太平治三二七票にして、右芳賀吉次郎、鈴木栄、芳賀新市及び小野敏爛の四名が当選人と決定され、その旨告示された。原告は右選挙区における選挙の効力に関し昭和三十一年四月十日勿来市選挙管理委員会に対し異議の申立をしたが、同年五月八日棄却されたので、同月二十五日被告委員会に訴願をしたところ、被告委員会は同年九月四日訴願棄却の裁決をし、その裁決書は同月十三日原告に交付された。

第二、しかしながら右選挙区における前記選挙は次の理由により無効である。すなわち、

(一)、(イ)、前記第一投票所(勿来市小川町字寺前三番地所在川部公民館)において、投票当日午前七時から公職選挙法(以下単に法という)第一七五条の二の規定による候補者の氏名及び党派別の掲示が右公民館の玄関を入つて突当り正面のガラス窓(検証調書添付第一図面中「甲第八号証の掲示をした」と表示されている箇所)に玄関に面して貼付してなされた。右の掲示には横二尺五寸三分、縦一尺七寸五分の厚洋紙が用いられ、之に縦・横約一寸八分大の文字を以て候補者坂本太平治の氏名を筆頭に以下鈴木明、小野敏爛、鈴木栄、芳賀新市、芳賀吉次郎、加茂勝夫の順に各候補者の氏名及び党派が墨書せられ且つ坂本候補を除くその余の候補者の氏名にはいずれも平仮名を以て振仮名が付記せられていたが、坂本候補の氏名には振仮名が付せられていなかつたところ、選挙人黒沢誠治が右の振仮名の脱漏を発見指摘した結果、投票管理者小川正弘において坂本候補の氏名に振仮名を付して右の脱漏を訂正したのであるが、その時刻は午前十時すぎであつた。

(ロ)、右の如き掲示は本件選挙の管理執行に関する規定である法第一七五条の二、及び福島県選挙管理委員会が同条第三項の規定に基き制定した公職選挙法施行細則第六二条の二第一、二項(第一項、法第百七十五条の二の規定により投票記載所にする氏名掲示は別紙第三十二号様式に準じ記載所の正面にしなければならない。第二項、前項の掲示は厚紙を用い氏名を墨書しふりかなをつけなければならない。)に違反するものである。しかして川部選挙区における投票数の過半を占める第一投票所において前記掲示が投票所内の投票記載所に掲げられなかつたのみならず、候補者坂本太平治の氏名に付すべき振仮名が前記の如く投票当日の午前七時から三時間に亘つて脱漏し、その間の投票数は六〇〇票に達していること、第三位当選人芳賀新市と第四位当選人小野敏爛との得票差は一二票、小野敏爛と加茂勝夫(次点)との得票差は五票、加茂勝夫と鈴木明(第六位)との得票差は一二票、鈴木明と坂本太平治(第七位)との得票差は二十四票で、最下位当選人である小野敏爛と最下位落選者である坂本太平治との得票差は四十一票であつて、各候補者の得票数の差は僅少であり、各候補者の得票のうち仮名を以て記載せられた投票は別紙目録記載のとおりの割合であること、第一投票区の区域はいわゆる常盤炭鉱地帯で三沢炭鉱、三松炭鉱、愛国炭鉱その他の炭鉱があり、その住民の大部分は採炭夫などの炭鉱従業者とその家族で、文字に暗く振仮名がなければ候補者の氏名を読み書きできない選挙人が多数いること、右の炭鉱従業者らは殆んどが寄留者で従来村会議員の選挙又は村会議員の氏名などに何等関心を持たなかつたものたちで本件選挙に当つてはこれら選挙人の浮動投票が多数あつたのみならず、女子の投票が過半数を占めていること、旧川部村では昭和十七年五月執行の村会議員選挙の際に投票が行われたが、その後の村会議員選挙はいずれも無競走のため投票が行われていないので、坂本候補は昭和八年から昭和三十年四月まで五期に亘り旧川部村議会議員の職にあつたとはいえ、前記炭鉱従業者らには全く名を知られていなかつたこと、などの事実を考えると、前記の違法は本件選挙における各候補者の当落の結果に異動を及ぼす可能性あること明白である。

(二)、次に勿来市選挙管理委員会は法第一七三条の規定による候補者の氏名及び党派別の掲示を本件選挙の期日前六日から選挙の当日まで勿来市川部支所(旧川部村役場)前の掲示板に掲げた。しかし右支所は第一投票区の南端に位置し有権者の交通少なき場所で、しかも同支所においては戸籍、住民登録の事務と税収納の事務を取扱つているが、一般の納税は納税組合において集金納入し、鉱山従業者の税金は源泉徴収して納付されるので、右支所に出入する者は少ない。右のような場所を選んで前記の掲示をなしたことは同条第二項の規定に反する違法の処置といわねばならない。

よつて本件川部選挙区における選挙は無効というべく、右選挙の有効なことを前提として原告の訴願を棄却した被告委員会の本件裁決は違法であるから、その取消を求めるため本訴に及ぶと陳述し、右に反する被告の主張は之を否認すると述べた。

被告指定代理人等は「原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因事実のうち第一の事実は認める。同第二の(一)(イ)の事実中、原告主張の掲示における候補者坂本太平治の氏名の振仮名の脱漏が訂正せられた時刻の点を否認し、その余の事実はすべて認める。同(ロ)の事実中、被告委員会が法第一七五条の二第三項の規定に基き制定した公職選挙法施行細則第六二条の二に原告主張の規定の存すること、第一投票所における投票数が川部選挙区における投票数の過半を占めること、各候補者間の得票数の差が原告主張の如くであること、各候補者の得票中に原告主張の割合による仮名書の投票が存すること第一投票区の区域内に三松炭鉱、愛国炭鉱が存し、その鉱山従業者の存すること及び候補者坂本太平治が昭和八年から昭和三十年四月まで五期に亘り旧川部村議会の議員であつたことは認めるが、その余の事実は否認する。同第二の(二)の事実中、原告主張の掲示が川部支所前の掲示板に貼付してなされたことは認めるが、その余の事実は否認する。坂本候補の氏名の振仮名の脱漏は当日午前九時四十分には訂正されていたもので、それまでに投票をしたものは四五三名(男二五一名、女二〇一名)である。第一投票区の区域内に存する三松炭鉱及び愛国炭鉱の鉱山従業員で本件選挙において選挙権を有していたものは計三一二名(男一四七名、女一六五名)にすぎず、しかも右有権者らは労働組合などを通じ、その政治的意識は極めて高く、選挙などには特に関心を示すものであつて、振仮名の脱漏などによつて投票を左右されるようなことはない。本件選挙は町村合併促進法に基く勿来市発足に伴い最初に執行せられたもので、小選挙区制を採り旧川部村の区域を一選挙区定員四名と定められたところ坂本候補は昭和八年以来五期に亘り旧川部村議会議員を勤め、うち一期間はその議長の職にあつたのみならず、本件選挙までは勿来市議会議員であり且つ右川部選挙区において立候補したこと、同候補は本件選挙に際し五百枚の選挙運動用ポスターを掲げていたこと、市選挙管理委員会において法第一七三条の氏名及び党派別の掲示を適法に法定期間したこと、第一投票所における氏名及び党派別の掲示には当初同候補の氏名に振仮名の脱漏はあつたものの、その氏名及び党派の記載には何等の誤記はなく、右脱漏の継続したのは短時間であつたこと、右選挙区における有権者数は二、八九二名のところ、投票者の数は二、七四一名で、その投票率は九四、七パーセントに及び無効投票は僅かに一六票にすぎなかつたこと、坂本候補の得票中仮名書きによる投票の占める割合が他の候補者のそれと大差のないこと、などの事実からして、選挙人は坂本候補の氏名を十分熟知していたものと認められ、前記の如き振仮名の脱漏によつてその間の投票者において同候補の立候補の事実を知ることができなかつたとか、同候補の氏名を記載することができなくて已むなく他の候補者に投票したとかの事実は到底考えられないから、前記振仮名の脱漏の事実は右選挙区における選挙の結果に異動を及ぼす可能性はない。又右の掲示がなされた箇所は施行細則に定める第一投票所における投票記載所の正面とはいい難いとしても右投票所内であること明白であつて、右投票所にあてられた川部公民館の構造上並びに従来の経験上、右投票所における投票を記載する場所の正面に右の掲示を掲げるときは選挙人の混雑のため見え難く反つてその目的を阻害するので、右投票所における最も適当なる箇所とみられる原告主張の箇所に掲げてなされたものであるから、右の掲示の場所については何等の違反がない。したがつて、これらの点をとらえて右川部選挙区における本件選挙を無効となす原告の主張は当らない。

次に市選挙管理委員会が川部支所前の掲示板にした法第一七三条の規定による氏名及び党派別の掲示は四月四日から横約二尺八寸の厚紙に候補者の氏名及び党派別を記載してなしたものであるが、右掲示場所は地方自治法第一六条第四項の規定に基く勿来市公告式条例の定める場所であり、且つその附近は川部小、中学校、公民館、郵便局のほか商店などが密集し、同地区の唯一の交通機関である常盤交通バスの終点で第一投票区における住民の生活上の中心地であるから、右掲示は法第一七三条の規定の趣旨に最もかなつた場所になされたものというべきである。しかのみならず、勿来市選挙管理委員会は告示第一三号をもつて三月二十八日法第一七三条の候補者の氏名等の掲示場所として前記川部支所前の掲示板のほか、勿来市小川町字橋本一三番地農業協同組合建物の前の掲示場を告示し、四月四日からこれにも掲示した。右場所は地形、人家の集合状況からみれば川部支所前よりも一層選挙区の中心地に位置するものであるから、本件選挙には法第一七三条に関する何等の違反はないと。述べた。

(証拠省略)

理由

原告主張の第一の事実及び本件選挙の当日第一投票所において、公職選挙法(以下単に法という)第一七五条の二の規定による候補者の氏名及び党派別の掲示が右投票所の設けられた川部公民館内の原告主張のガラス窓に貼付してなされたことは当事者間に争がない。

そこでまず、右の掲示のなされた前記箇所が法第一七五条の二に規定する投票所内の箇所に該るかどうかについて按ずるに、法第一七五条の二が選挙の当日投票所内の投票の記載をする場所その他適当な箇所に候補者の氏名及び党派別の掲示をしなければならないと規定した所以のものは、民主主義の基本をなす公職の選挙において、一般選挙人がその投票用紙に候補者の氏名を記載するにあたつて、候補者の氏名、所属党派のみならず候補者の氏名の文字などを再確認する機会を与えて投票の記載を正確ならしめ、且つ教育程度の低い選挙人にも候補者の氏名の文字を識別してこれを容易に記載し得るようなさしめ、以て選挙人の意思を誤なく選挙の結果に反映せしめようとする要請に基くものと解すべきであるから、法第一七五条の二にいわゆる投票所とは投票所の設けられた舎屋の全体を指すのではなく、投票に関する法律上必要な手続である選挙人名簿の対照、投票用紙の交付、投票の記載およびその投函などが現実に行われる場所(室)を指称するものと解すべきである。しかして証人小川正弘の証言、検証の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すると、第一投票所の設けられた前記川部公民館は約三十一坪の建物で、内部は玄関に続く廊下を隔てて集会場(二十坪)と会議室兼事務室(六坪)の二室に分れており、その構造は別紙第一図面記載のとおりであること、本件選挙に当つては右集会場の内部に別紙第二図面記載の如く受付、投票用紙を交付する場所などが設けられたほか、投票記載台投票函が設置せられ、右集会場内において選挙人名簿の対照、投票用紙の交付などの投票に関する手続並びに投票の記載、投函などが行われたけれども、玄関から右集会場に至るまでの廊下は右集会場への通路として使用されたに止り、又前記会議室兼事務室においては投票手続に関する何等の事務も処理されなかつたこと、前記の掲示のなされた玄関正面のガラス窓は右集会場と廊下の境をなし、前記掲示は右ガラス窓の廊下に面して貼付せられ、集会場の内部からはこれを見ることができないこと、右集会場の内部には候補者の氏名及び党派別の掲示は何等なされていなかつたこと、以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

右の認定事実によれば、本件選挙の川部選挙区における第一投票所は前記川部公民館内の集会場二十坪であると認めるのが相当であるから、前記の掲示は第一投票所内ではない箇所に掲げられ、投票所内には法第一七五条の二所定の掲示がなされなかつたこと明白である。被告は右掲示の掲げられた箇所は第一投票所内に該ると主張するけれども、右の掲示のなされた箇所は投票所に入るまでの通路たるに止まり投票所内ということはできないから、右主張は採用できない。被告は更に右の掲示のなされた箇所は法第一七五条の二第一項にいう「その他適当な箇所」に該ると主張するけれども、右の「適当な箇所」とは投票所内における適当な箇所と解すべきであるから、右の掲示のなされた箇所が前記に認定した如く第一投票所内の箇所にあたらない以上、右主張も採用できないこと明白である。仮りに右掲示箇所が投票所内に在るものといへるとしても、前示の如く右掲示は投票を記載する場所からはこれを現認し得ないのであるから、前記立法趣旨からして、法第一七五条の二所定の「適当な箇所」ということはできない。

しからば選挙当日候補者の氏名及び党派別の掲示を前記の如く第一投票所内に掲げなかつたこと又は投票所内の適当な箇所に掲げなかつたことは法第二〇五条にいわゆる「選挙の規定」たる法第一七五条の二に違反するというべきである。

そして右川部選挙区においては第一ないし第三投票区に分れていたが開票区は一箇であつて、右選挙区における有権者数は、二、八九二名で、投票者数は二、七四一名であつたこと、第一投票所(第一投票区)における投票数は一、四八九票(不在者投票八票を含む)、第二投票所(第二投票区)における投票数は七九〇票(不在者投票五票を含む)、第三投票所(第三投票区)における投票数は四六二票(不在者投票三票を含む)であつたこと、右選挙区における定員は四名のところ、原告主張の七名が立候補し、各候補者の得票数は別紙目録記載のとおりであることは当事者間に争がなく、右事実によれば第一投票所の投票数が投票総数の過半数を占め、各候補者の得票差が比較的少なく、最下位当選者小野敏爛と最高位落選者加茂勝夫との得票差は僅かに五票であり、最高位当選者芳賀吉次郎と最下位落選者坂本太平治の得票の差も一四六票にすぎないこと、また各候補者の得票中仮名を以て記載せられたものが同目録記載のとおりの数にのぼることは当事者間に争がなく、投票者中には教育程度の低い者の多数存したことが窺えること、検証の結果によれば第一投票所である前記集会場の内部からは前記氏名等の掲示を現認し得ないことが認められ、これらの諸事情を合せ考えるときは、第一投票所内における前記の掲示違反事実は右川部選挙区における本件選挙の結果に異動を及ぼす可能性が十分にあると認めざるを得ない。前記掲示のなされた箇所が仮りに被告主張の如く右公民館内では選挙人の一番見易い箇所であるとしても、右の箇所は前記認定の如く第一投票所内に該らないし、右の掲示は前記集会場の内部からはこれを現認し得ない位置にあるのであるから、右の事実は前記判断を動かすに足らない。又被告主張の如く候補者坂本太平治の氏名が周知せられ、本件投票の率が九四、七パーセントに及び無効投票が一六票にすぎないとしても、前記事情からみて右判断を覆えすに足らない。

仮りに前示氏名掲示の箇所が適法であるとしても、右掲示には当初候補者坂本太平治の氏名に振仮名が付せられていなかつたところ選挙人黒沢誠治の指摘によつて訂正せられたことは当事者間に争がないから、右は法第一七五条の二第四項福島県選挙管理委員会公職選挙法施行細則第六二条の二第二項の規定に違反するものといわねばならない。しかして右違反が係員の故意によりなされたことはこれを認めるに足る証拠はないけれども、成立に争のない甲第七号証と証人黒沢誠治、小宅フサ、小川正弘の各証言を綜合すると、右の訂正がなされるまでに少くとも四七三名の選挙権者が投票をしたことが認められ、右事実に前記各投票所における投票数、各候補者の得票数、及び各仮名書でなされた投票数等による認定の諸事情を綜合するときは、右規定違反は本件選挙の結果に異動を及ぼすものといわねばならない。被告主張のとおり候補者坂本太平治の氏名が周知せられ、投票率が九四、七パーセントに及び無効投票が一六票にすぎないとしても右認定を覆えすに足りない。

されば本件選挙の川部選挙区における選挙は、その全部が無効であるといわなければならない。

原告は、勿来市選挙管理委員会が本件選挙に際し、法第一七三条所定の掲示としてした勿来市川部支所前の掲示場所は、公衆の見易い場所に該らないから、同条の規定に違反するものであると主張するけれども、左の理由により採用できない。即ち本件選挙に際し、勿来市選挙管理委員会が法第一七三条所定の掲示として勿来市川部支所(旧川部村役場)前の掲示板にこれをしたことは当事者間に争がなく、右事実に成立に争のない甲第九号証、第十号証の一、乙第四号証と証人小川正弘、小野孝平、斎藤市吉の各証言並びに検証の結果を綜合すると、右掲示板の位置はその西方には人家は疎らであるけれども、旧川部村の中心の市街地を形成している小川町の西端に位し、その前は常盤交通自動車株式会社の「川部、勿来」「川部、植田」線の乗合自動車の始発及び終着場所で相当頻繁に発着しており附近には公民館、小学校、中学校もあつて人の集まるところであること、右掲示板は勿来市公告式条例で定められた掲示場所であることが認められ、右認定を動かすに足る証拠はないから、右掲示の場所は「公衆に見易い場所」でないということはできない。

以上のとおりであるから、被告が右川部選挙区における本件選挙の有効なることを理由として、原告の本件訴願を棄却する旨の裁決をしたのは失当に帰するを以て、右裁決の取消を求める原告の本訴請求は正当にしてこれを認容すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 石井義彦 上野正秋 兼築義春)

(別紙省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例